2007年2月13日火曜日

-すれ違い際の憧憬-

暖冬と言えども真冬の夜は寒い。
家路に向かう足取りも自然と速くなる。
まるで手応えのないバイトの面接を終え、駅前の通りを歩いていると、
体を密着させて歩いているカップル達とすれ違う。
この寒さも恋人達にとっては互いの温もりを際立たせる演出として
一役買っているのだろう。
そんなカップル達を私は遠く、非現実感をもって眺める。
私の記憶にある真冬の温もり…、小学生の頃に足を挫いて近所の病院まで
背負ってもらった母の背中くらいしか思い浮かばない。
ふと、視界の先に美しい雰囲気の女性がこちらに向かい歩いてくるのが見え、
私ははっとした。まじまじと顔を覗き込むことは出来ないので歩く速度を緩め
顔を見るチャンスを伺った。
すれ違う瞬間、彼女の横顔を確かめる。
やはり美しい女性だった。思った通りだ、と何の生産性も無い自己満足に浸る。
寒さの中に凛と張り詰めた表情、冷然としながらもどこか温かみのあるその
瞳に私の姿はどのように映ったのだろうか。
遠ざかる彼女の後ろ姿を見ていると、ふと、彼女なら醜悪な顔や体臭といった
形而下な肉体に属すものなどに惑わされることなく、本当の私を、私に宿るゴースト
そのものと接してくれるかもしれない、そんな直感が何の前触れもなく私を襲った。
都会の冬空の下、私は静かに目を瞑り想像する。
外の寒さを忘れてしまうような暖かい部屋。
少し狭いソファーに座り私は上ずる気持ちを落ち着かせながら彼女を待つ。
彼女がやってきた。
美しい…。彼女は私の隣に端然と座った。
目と目が、互いに陰微な熱を帯びながら静かに絡み合う。
彼女の瞳の内に寛容的な慈愛が湛えられ、私は震えるような衝動を抑えられず
彼女を強く抱きしめ、貪るように彼女の唇を吸う。
密着した唇と唇のわずかな隙間から彼女の静かな、甘い吐息が漏れる。
いつの間にか彼女は私の上に股がり乳飲み子に乳を与えるかのように私に
その柔らかく温かい乳房を押し付けてくる。
私もその剥き出しの母性に応えるかのように躊躇なく彼女の谷間に顔を埋める。
ホックを外そうとする私の慣れない手付きが煩わしいのか、彼女は自ら
ブラジャーを外しそのスリムな外見からは想像できない豊かで陶器のように瑞々しい
乳房を私の眼前に晒した。導かれるように彼女の乳首に食らいつき狂ったように
舌を這わせていると彼女の手がそっと伸び、屹立した私のそれにそっと…
ってそれピンサロじゃん!
私は妄想から現実に引き戻された。
思い返してみれば私はお金を介さない自然な男女の触れ合いをろくに知らないのだ。
経験の貧しさからくるその悲しすぎる妄想に自分の半生を呪いたくなったが、
妄想のギラギラした部分だけ妙に下腹部に残尿感のように残り、
私は近いうちに風俗に行くことを確信した。
そのためにも何としてもバイトに受からなければ、と、
後ろ向きに前向きになった。

※ピンサロ → ピンクサロンの略

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